東海3県において圧倒的な知名度を誇った赤ちゃんデパート水谷が店舗網を縮小させた背景には、単一の要因ではなく、日本のベビー用品市場を取り巻く構造的な地殻変動が存在します。かつて週末になればファミリー層で駐車場が満車になっていた店舗が次々と姿を消した背景には、主に4つの決定的な理由が挙げられます。
第1の要因は、西松屋チェーンによる圧倒的なドミナント戦略と低価格PB(プライベートブランド)の台頭です。西松屋は全国規模で標準化された小型・中型ロードサイド店舗を急速に出店し、自社開発ブランド「ELFINDOLL(エルフィンドール)」や「SmartAngel(スマートエンジェル)」を武器に、圧倒的な低価格帯のベビー服・日用品を展開しました。衣料品を中心とした日常的な買い回り需要を西松屋に奪われた影響は甚大でした。
第2の要因は、イオンモールやららぽーとなど大型ショッピングモールへの顧客流出です。アカチャンホンポやトイザらス・ベビーザらスが大型商業施設内のキンテナントとして出店を加速させたことで、ファミリー層の週末の消費行動が「ロードサイド単独店」から「1日遊べる複合SC」へと一気にシフトしました。
第3の要因として、Amazonや楽天市場をはじめとするEC(ネット通販)の定着が重くのしかかりました。育児中の家庭にとって、重量のある紙おむつや粉ミルクのまとめ買いを自宅玄関まで配送してくれるECサービスは決定的な利便性を持ち、かつて水谷が強みとしていた「まとめ買いディスカウント」の優位性が相対的に薄れる結果となりました。
そして第4の要因が、国内の加速度的な少子化の進行です。厚生労働省の人口動態統計を見ても出生数の減少傾向は急速であり、ターゲット層である乳幼児人口そのもののパイが縮小したことで、従来のような広域多店舗展開モデルの維持が難しくなりました。