19世紀のフランスにおいて、ジャンヌは単なる宗教的アイコンにとどまらず、失われた国威を回復するためのナショナリズムの象徴となった。そのため、当時のアカデミズムを牽引した画家たちは競うように彼女を題材とした歴史画を描いた。
アングルが描いた高貴で神聖な姿に対し、まったく異なるアプローチで迫ったのがジュール・バスティアン=ルパージュだ。彼が描いた名作は現在、アメリカのメトロポリタン美術館で絶大な存在感を放っている。アカデミックな規範を打ち破り、写実的かつ幻想的なタッチで少女の苦悩を捉えた作品群は、ヨーロッパ中で大きな議論を巻き起こした。同じ被写体でありながら、美術館ごとに全く異なる解釈が並んでいる点こそ、彼女という歴史的色彩の奥深さを示している。