ではなぜ、現代に至るまで「安倍晴明は暗殺された」「ライバルに呪い殺された」という噂が根強く囁かれているのでしょうか。その発端は、中世以降に成立した説話集や芸能文化にあります。
鎌倉時代初期の説話集『宇治拾遺物語』や『古今著聞集』、さらには江戸時代に大ヒットした浄瑠璃・歌舞伎の演目『芦屋道満大内鑑』などにおいて、晴明の最大のライバルとして描かれたのが播磨国の民間陰陽師・芦屋道満(道摩法師)です。劇中では、道満が晴明の妻と通じて秘伝書を盗み出し晴明を謀殺するものの、師匠である伯道上人の術によって晴明が蘇生し、逆に道満を討ち果たすというドラマチックな復讐劇が描かれます。
こうした大衆娯楽の中で生まれた「暗殺と復活」のモチーフが、時代を経るにつれて事実と混同され、ネット社会における「暗殺説」の温床となりました。陰陽師 安倍晴明 伝説と史実と虚構の境界線は、説話の娯楽性と史料の厳密性を切り分けることで明確に整理できます。