一方で、フィットネス初心者が最も陥りやすい落とし穴がストレッチ運動における伸張反射の誤用だ。学校の体育の授業などで「イチ、ニ、サン、シ」の掛け声とともに反動をつけて前屈をする光景を見かけるが、運動生理学の観点から言えば、柔軟性を高める目的においてこれは完全な間違いである。
筋肉を柔らかくしたい場面でリズミカルにグイグイと反動をつけると、筋紡錘は「筋肉が引きちぎられようとしている」と誤認する。その結果、即座に伸張反射のスイッチが入り、伸ばそうとしているターゲットの筋肉がガチガチに収縮してロックされるという本末転倒の事態を招く。反動を使ったストレッチで筋肉痛になったり筋膜を痛めたりする原因の多くは、縮もうとする反射の力に逆らって無理やり引っ張ることで生じる微小断裂だ。
ここで知っておくべきは、目的に応じた伸張反射ストレッチ活用法の明確な切り分けである。
関節可動域を根本から広げたい静的ストレッチ(スタティックストレッチ)では、反動を一切使わず、痛気持ちいい手前のポイントまで20〜30秒間かけてゆっくりと持続的に伸ばすのが鉄則だ。筋紡錘は速度の変化に敏感なため、時間をかけてじわじわと伸ばせば反射の発火を最小限に抑えられ、筋肉を安全に弛緩させることができる。
逆に、運動前のウォーミングアップで行う動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)では、伸張反射を適度に刺激することで筋温を上げ、神経系を覚醒させて実動作の筋出力を引き上げるアプローチが取られる。同じ「伸ばす」行為であっても、反射を眠らせたいのか、それとも呼び覚ましたいのかによって、速度とアプローチは正反対でなければならない。