多くのBLファンが「猫化」というシチュエーションに惹きつけられる最大の理由は、キャラクターが抱える心理的防壁(バウンダリー)の不可抗力的な崩壊にあります。普段はクールで隙のないエリート受けや、冷淡な態度を崩さない攻めが、突然耳や尻尾を生やしただけで、その精神構造に劇的な変化がもたらされます。
人間の姿のままでは絶対に口にできない「寂しい」「もっと触れてほしい」という本音を、猫の習性が強制的に引き出してしまうのです。喉を無意識に鳴らしてしまったり、相手のシャツの匂いを嗅いで落ち着こうとしたりする仕草は、まさに心理学でいう「退行(心理的負荷から逃れるため、幼少期や本能的な精神状態へと戻る無意識の防衛機制)」そのもの。読者は、抗おうと必死に顔を赤らめるキャラクターの葛藤と、それに抗えない身体の反応に、抗いがたいカタルシスを覚えます。
さらに、猫特有の「気まぐれさ」も物語を加速させます。さっきまで擦り寄ってきたかと思えば、急につれなくそっぽを向く。この予測不能な行動規範が、普段は冷静沈着なパートナーを激しく翻弄し、独占欲や執着心を一気に限界点まで引き上げるのです。理性が本能によって上書きされる背徳感こそが、読者を狂わせる第一の引き金となっています。