日本国内におけるニック人気の爆発的な広がりを語るうえで、ズートピア日本語吹き替え声優を務めた森川智之さんの存在を外すことはできません。洋画吹き替えにおいてトム・クルーズやキアヌ・リーブスなど錚々たるハリウッドスターの声を担当してきた森川さんの声響は、ニックというキャラクターに類まれな気品と成熟した色香を付与しました。
原語版のジェイソン・ベイトマン(Jason Bateman)氏による演技は、知的でドライ、都会的なリアリズムに溢れた詐欺師像を見事に体現していました。対して森川さんのアプローチは、その軽妙さを完璧にトレースしつつ、台詞の語尾にわずかに息を混ぜるウィスパー(囁き)の技法を用いることで、日本語の音韻特有の艶っぽさと「大人の包容力」を前景化させています。
当時のインタビューや特番において森川さんは、ニックを演じるにあたり「子供っぽくならないこと」「ジュディを子ども扱いしているように見せて、実は誰よりも対等に見つめているニュアンスを声に宿すこと」を意識したと証言しています。特に、感情が高ぶる場面でも声を荒らげず、トーンを低く落として諭すように語りかける芝居設計は、聴覚的な快感を伴って視聴者の耳朶を打ちます。「森川さんの声でなければ、ここまでニックに狂わされることはなかった」と公言するファンが後を絶たないのも頷ける完成度です。