本作の屋台骨を支えたのは、間違いなく役所広司の凄まじい求心力だ。彼が演じた主人公は、絵空事の聖人君子ではない。他人の重荷を背負い込もうとするあまり自らの生活を破綻させかける、不器用で、迷いに満ちた市井の男である。台本を読み込んだ役所は、撮影前の数週間、実際に地方の相談窓口やボランティア施設へ足を運び、関係者たちの沈黙や目線の配り方を徹底的に身体へ染み込ませたという。
カメラが回った瞬間、役所は役そのものへと変貌した。言葉に詰まりながら絞り出す吐息、わずかに震える指先、そして相手を見つめる哀切を帯びた眼差し。過剰な劇的演出を削ぎ落とした静寂のなかで、観る者の心臓を直接掴むような演技を見せつけた。彼が放つ圧倒的なリアリズムがあったからこそ、物語の根底にある泥臭い人間賛歌が観客の胸を打つのだ。