伊藤潤二が生み出した『うずまき』のキャラクター造形において、物語の推進力となっているのが主人公・五島桐絵と、その恋人・斎藤秀一の存在です。桐絵は町で起きる奇怪な現象に巻き込まれながらも、家族を守ろうと健気に奮闘する「日常の象徴」として描かれます。一方の秀一は、極度の神経過敏でありながら、誰よりも早く町の異常性に気づき「この町はうずまきに汚染されている、早く逃げよう」と桐絵に警告し続ける預言者的な役割を担っています。
作中で描かれるエピソードの数々は、読者にとって「トラウマ」として語り継がれる強烈なビジュアルに満ちています。読者の記憶に深く刻み込まれた主な怪異には、次のようなものがあります。
・ヒトマイマイ化:遅刻癖のある生徒や無気力な人間が、次第に皮膚をぬめらせ巨大なカタツムリ(ヒトマイマイ)へと変貌し、殻を背負って這い回る恐怖。
・髪の毛のうずまき:桐絵の美しい髪が自我を持ったように巨大な渦を巻き、周囲の視線を奪いながら生命力を吸い取っていくエピソード。
・ねじれる長屋:町の崩壊が進むにつれ、古い長屋が螺旋状にねじれ曲がり、住民たちが狭い空間で折り重なるように融合していくグロテスクな共同生活。
伊藤潤二作品がトラウマと呼ばれる理由は、単に血飛沫が飛ぶような直接的暴力ではなく、人体が幾何学的なルールに従って冷酷に変形していく「秩序ある異形さ」にあります。身近な身体の一部が自分の意思を離れて渦を巻き始める感覚が、読者に根源的な生理的恐怖を植え付けるのです。