一方で、日本社会に「組織的・集団的な嫌がらせ」がまったく存在しないかといえば、そうではありません。現実の事件報道や民事訴訟記録を精査すると、法的に認定される嫌がらせと、ネット上のオカルトじみた言説との間には明確な境界線が引かれています。
現実に存在する組織的嫌がらせの実態として最も代表的なものが、企業における「職場モビング(集団的いじめ・追い出し)」です。過去の裁判例でも、退職に追い込む目的で特定の社員に対して部署ぐるみで仕事を一切与えない、孤立させる、あるいは私生活の動向を興信所に調査させるといった企業の不法行為が認定され、損害賠償命令が下されたケースは枚挙にいとまがありません。また、反社会的勢力や悪質な債権回収業者が、債務者の親族や近隣に対して集団で嫌がらせの電話をかけ続けたり、中傷ビラを撒くといった行為も刑法の威力業務妨害罪や名誉毀損罪で摘発されています。
対照的に、ネット上で囁かれる集団ストーカーの目的と理由は、論理的な破綻を抱えています。「ただの一般市民である自分が、なぜ数千万円から数億円規模の費用と人員を動員されて24時間監視されなければならないのか」という問いに対し、合理的な説明がつくケースはありません。ネット掲示板などでは「特定の宗教団体や秘密組織の実験台に選ばれた」といった説明が後付けで付与されますが、莫大なコストと発覚リスクを冒してまで無名の個人を追尾し続ける組織的動機は、現実の犯罪心理学・社会学の観点からは成り立たないのです。