スペックの戦闘能力を語る上で避けて通れないのが、医学の常識を平然と踏み躙る「無呼吸連打」だ。人間が息を止めて激しい運動を行える限界は約1分。だがスペックは、心肺機能を極限まで酷使し、酸素供給を断った状態で5分間もの間、超音速の打撃を浴びせ続ける。巨木をへし折り、神社の巨鐘を歪ませる暴風雨のような拳の乱舞。防戦一方となった相手は、息を吸う間すら与えられず圧殺される運命をたどる。
だが、その理不尽な暴威の前に立ちはだかったのが、当時わずか19歳のヤクザの組長、花山薫だった。東京の夜の路上で繰り広げられた死闘は、シリーズ屈指のベストバウトとして語り継がれている。スタンガンや銃弾、仕込み刃物といったスペックの卑劣な急襲に対し、花山は一切の防御を捨て、素手喧嘩の矜持だけで受けて立った。
勝敗の分水嶺となったのは、技術や狡猾さではなく、己の肉体に対する絶対の覚悟だった。スペックの猛攻で口内を爆破され、両膝を撃ち抜かれながらも、花山は倒れない。放たれた渾身の「握撃」がスペックの腕を破裂させ、怒涛のフルスイングが狂気の巨漢を夜の闇へと沈めた。小細工を弄して生き延びてきた怪物と、ただ純粋な膂力で立ち続けた若き漢。その結末のコントラストは、読者の胸に鮮烈な美学を刻み込んだ。