インターネット上やSNSでは「犬の唾液には殺菌作用がある」「口移しで触れ合ってこそ本当の絆」といった非科学的な言説が散見されますが、これは医学的に極めて危険な誤謬です。
厚生労働省および日本獣医師会の啓発資料が警告するように、愛犬の口内には多種多様な常在菌が存在し、人間側に重大な健康被害を及ぼす人獣共通感染症リスク(ズーノーシス)が存在します。
特に注意すべき病原菌の筆頭がパスツレラ症を引き起こすパスツレラ菌(Pasteurella multocida等)です。健康な犬の口腔内保有率はほぼ100%に達します。犬自身には無害でも、人間の粘膜(唇、結膜、鼻腔)や微細な傷口から侵入すると、局所の化膿性炎症だけでなく、高齢者や免疫力が低下している人では重篤な肺炎、骨髄炎、敗血症を引き起こす恐れがあります。
さらに近年警戒が高まっているのが、犬の口腔内常在菌である「カプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)」感染症です。感染例は稀であるものの、発症した場合の致死率は約30%に達すると報告されており、敗血症や多臓器不全に至る重症例が国内外で確認されています。
獣医師が教える注意点として、「どんなに清潔にケアしている愛犬であっても、口唇への直接キス、目や鼻の粘膜を舐めさせる行為、肌荒れや傷口への接触は絶対に避けるべき」というのが2026年時点の医療・獣医学界における厳格な統一見解です。