消費者が日常的に手にするスーパーの鶏肉と、鳥肉専門店が扱う精肉の間には、生産から店頭に並ぶまでの工程に埋めがたい構造の断絶があります。最大の分岐点は「解体方法」と「冷却プロセス」です。
一般的な大規模ブロイラー農場から大手スーパーへ供給される鶏肉は、巨大な食鳥処理プラントにおいてオートメーション化された機械で解体されます。その際、肉の体温を急激に下げるために冷水へ漬け込む「水冷式(ウォーターチリング)」が主流です。この工程を経ることで、肉が水分を余分に吸水し、細胞壁が緩んでしまいます。結果として、家庭で加熱調理した際に白濁したアクや水分が大量に流れ出し、パサつきや特有の臭みを生む元凶となるのです。
対して、老舗の鳥肉専門店や精肉店直営鶏肉卸が仕入れる鶏肉は、熟練の職人が包丁一本で筋繊維を傷つけずに骨から肉を外す「外剥ぎ手ばらし」が基本です。冷却にも冷風を用いる「エアーチリング(風冷式)」を採用しているケースが多く、余計な水分を一切吸わせません。農林水産省の生産流通関連データおよび食肉衛生検査所の知見を照らし合わせても、手ばらし肉は筋膜が綺麗に保持されるため、加熱時のドリップ流出率が機械解体に比べて最大で約40%以上抑制されることが実証されています。
さらに見逃せないのが「朝引き鶏鮮度の理由」です。通常の流通網では、処理された鶏肉が配送拠点やパッキング工場を経てスーパーの棚に並ぶまでに2日〜4日程度のタイムラグが生じます。一方、朝引きを謳う専門店では、当日の未明から早朝にかけて処理された鶏がその日の午前中には店頭へ届きます。鶏肉は畜肉の中で最も酸化が早く足が早い肉種だからこそ、この「数時間の差」が脂の酸化臭を抑え、澄み切ったコクを生み出す決定打となっています。