「激走すると首や肩から血の混ざった汗を吹き出す」という驚くべき描写は、長年オカルト的な誇張だとみなされてきました。しかし、現代の獣医学と寄生虫学のアプローチにより、この現象には明確な科学的根拠が存在することが判明しています。
現在、最も有力とされているのが「多発性馬糸状虫(パラフィラリア・ムルティパピローサ)」と呼ばれる寄生虫の関与です。
この寄生虫は馬の皮下組織に寄生し、気温の上昇や激しい運動によって馬の体温が上がると、皮膚を破って微小な出血病変を形成します。激走によって全身から吹き出た透明な汗と、破れた毛細血管からにじみ出た血液が混ざり合うことで、あたかも「真っ赤な血の汗を全身から流している」かのような光景が生まれたのです。寄生虫による健康被害は軽微であり、馬の驚異的なスタミナを損なうことはありませんでした。
さらに、生体構造そのものに起因する要因も指摘されています。汗血馬の血統は皮膚が非常に薄く、激しい疾走時には皮下の毛細血管が極限まで拡張します。夕暮れの砂漠や強い日差しの下で、汗に濡れた光沢のある赤褐色の被毛と拡張した血管が重なり合い、鮮血がにじんでいるように見えたという視覚的要因も重なっていたと考えられます。