なぜ、自分自身の免疫システムが正常な末梢神経を攻撃してしまうのでしょうか。その引き金を引くのが、発症の直前に経験する先行感染です。ギラン・バレー症候群の患者の約70%に、風邪(発熱、咽頭痛、咳)や感染性胃腸炎(下痢、腹痛、嘔吐)の病歴が確認されています。
先行感染の原因病原体の中で、医学界で最も決定的なリスクファクターとして特定されているのが、鶏肉などの加熱不足によって引き起こされる食中毒菌カンピロバクター(Campylobacter jejuni)です。
ここには「分子模倣(分子相同性)」と呼ばれる極めて不運な免疫の錯覚が存在します。カンピロバクター菌の表面にある外膜糖鎖の構造が、人間の末梢神経細胞の表面に豊富に存在する糖脂質「ガングリオシド(GM1やGD1aなど)」の分子構造と驚くほど酷似しているのです。
菌を排除するために体内リンパ球が作り出した抗体(自己抗体)は、体内から菌が消え去った後も血中を巡り、構造がそっくりな末梢神経のガングリオシドを「標的」と見誤って激しく攻撃を加えます。この結果、神経伝導が完全に遮断され、脳からの「動け」という指令が手足の筋肉に一切届かなくなります。カンピロバクター以外にも、サイトメガロウイルス(CMV)、EBウイルス、マイコプラズマ感染症なども同様の免疫異常を誘発することが確認されています。