菅野美穂さんの軌跡を語る上で避けて通れないのが、1997年8月、20歳の誕生日に発売された写真集『NUDITY』(撮影:宮澤正明氏)です。屋久島やグランドキャニオンなどの雄大な自然を舞台に全編ヌードで撮影された本作は、清純派ドラマの主役を務めていたトップ女優が自ら脱いだという事実とともに、発売告知直後から社会現象となりました。
書籍の売上は累計発行部数80万部を記録。1991年に社会現象となった宮沢りえさんの写真集『Santa Fe』(155万部)に匹敵するインパクトを平成出版界にもたらしました。しかし、発売前日に行われた出版記念記者会見での菅野さんの様子は、今もネット上で様々な憶測を呼んでいます。
会見場に現れた菅野さんは、終始硬い表情を崩さず、フラッシュが焚かれる中で時折涙を浮かべて言葉を詰まらせました。この姿から、ネット上や一部週刊誌では「事務所に騙されて無理やり脱がされたのではないか」「本人の本意ではなかったのではないか」という噂が現在も囁かれることがあります。
しかし、当時の制作関係者の証言や後のインタビュー記録を検証すると、事実は大きく異なります。撮影自体は菅野さん本人の強い意志と「20歳という節目に、表現者として殻を破りたい」という覚悟のもとで進められたプロジェクトでした。会見で涙を見せた最大の要因は、周囲の大人のプロモーション戦略が「芸術的な肉体美」ではなく過激な「ヘアヌード」というスキャンダラスな文脈で先行して世間に煽られたこと、そして家族や世間の反響の大きさに20歳の少女が押し潰されそうになった現場のプレッシャーによるものでした。
自らの意志で選んだ道でありながら、芸能界という巨大な商業システムの波に揉まれる葛藤。しかしこの騒動を逃げずに受け止めたことが、その後の彼女の役者としての覚悟をより強固なものにしたのは紛れもない事実です。