もう一つの金字塔として読者を虜にし続けるのが、甘岸久弥による『魔導具師ダリヤはうつむかない』だ。婚約破棄という絶望的なスタートラインから、自らの職人技と情熱だけを頼りに工房を立ち上げるダリヤの姿は、圧倒的な爽快感を放つ。冷たい雨に打たれながらも、決して顔を伏せることなく前を見据えるその瞳に、どれだけの読者が涙しただろうか。
甘岸久弥の筆致が秀逸なのは、ものづくりの狂気と喜びを極めて生々しく描き出す点にある。防水布の開発や魔導コンロの改良といった細部に宿るリアリズム。そして、魔物討伐部隊の騎士との間で育まれる、大人の節度と敬意に満ちたロマンス。恋愛に依存せず、己の腕一本で社会に立ち向かうプロフェッショナルとしての誇りが、現代の女性読者から絶大な支持を集める決定打となった。