短編ごとに視点人物が入れ替わる構造を取りながらも、各章の深層には共通する「不在の影」がたゆたう。登場人物たちは皆、自分を傷つけた相手を忘れられない。あるいは自ら傷を負うことでしか、愛を証明できない不器用さを抱えている。
物語が終盤に向かうにつれ、各エピソードの背後に隠された人間関係の意外な繋がりが浮かび上がる。衝撃の結末において明かされるのは、救いという名の残酷な真実だ。個別の短編として完結しているかに見えたドラマが、ラストでひとつの巨大な情念のモザイク画として完成する瞬間のカタルシスは言葉に尽くしがたい。