蟻鱒鳶ルが「三田のガウディ」と称される最大の理由は、その特異な外観だけではありません。着工した2005年11月以来、岡啓輔氏がほぼ単身、重機や生コンクリートミキサー車に頼らず、自らのスコップとフネ(練り桶)を用いた「手練り」でコンクリートを打ち続けてきた点にあります。
岡氏は有明工業高等専門学校建築学科を卒業後、舞踏家としても活動した異色の経歴を持ちます。肉体表現の極限を知る彼が選んだのは、現代のスピード重視の建築業界が捨て去った「超低スランプ(固練り)の極上コンクリート」でした。一般的な建築現場で使われる生コンは、作業効率を上げるために水分量を増やし、流動性を高めてポンプ車で圧送します。しかし水分が多いコンクリートは、乾燥収縮によるひび割れが生じやすく、一般的な寿命は数十年から60年程度とされています。
対して岡氏が手練りで作るコンクリートは、水を極限まで減らし、骨材とセメントを全身全霊で練り上げたもの。打設時には木槌で型枠を叩き、内部の空気を徹底的に追い出して隙間なく充填します。この過酷な手作業によって実現したコンクリートは、「200年、あるいは数百年以上持つ」とされる驚異的な圧縮強度と耐久性を誇ります。1日に打ち込める量はわずかバケツ数十杯分。気の遠くなるような時間をかけ、コンクリートが硬化する化学反応と対話しながら積層させていった結果が、あの生命力あふれる外観へと結実しているのです。