近代の建築・土木構造物において最も多用される構造用鋼材がH形鋼です。H形鋼の計算には「外側から引く方法」と「パーツごとに分解して平行軸の定理を使う方法」の2大アプローチが存在します。
アプローチ1:くり抜き法(外接長方形からの減算)
強軸(X軸まわり:部材を「エ」の字に見立てて上下に曲げる力に対する計算)では、外側の長方形から、両脇の空間部分(中空長方形2つ分)を引き算するのが圧倒的に迅速です。
- 外接長方形の断面二次モーメント:$I_{1} = \frac{B H^3}{12}$
- 引くべき左右2つの空隙:幅の合計が $(B - t_w)$、高さが $(H - 2t_f)$ なので、$I_{2} = \frac{(B - t_w)(H - 2t_f)^3}{12}$
- 部材全体の断面二次モーメント:$I_x = I_1 - I_2 = \frac{B H^3 - (B - t_w)(H - 2t_f)^3}{12}$
アプローチ2:弱軸(Y軸まわり)の計算
一方、弱軸(部材を「H」の字に見立てて左右に曲げる力)まわりの計算では、空隙を引き算するのではなく、「2枚のフランジ」と「1枚のウェブ」を単純加算します。
なぜなら、各パーツの図心軸が部材全体の図心軸(Y軸)と完全に一致しているため、平行軸の定理($A d^2$)を考慮する必要がないからです。
- フランジ2枚分:$2 \times \frac{t_f B^3}{12}$ (※フランジの幅が $B$、厚みが $t_f$)
- ウェブ1枚分:$\frac{(H - 2t_f) t_w^3}{12}$ (※ウェブの高さが $H - 2t_f$、厚みが $t_w$)
- 弱軸全体の断面二次モーメント:$I_y = \frac{2 t_f B^3 + (H - 2t_f) t_w^3}{12}$
実務では、強軸の $I_x$ に対して弱軸の $I_y$ は 1/10〜1/20 程度まで低下することが珍しくありません。大地震時やクレーン走行時の横揺れによって生じる「横座屈」を防ぐため、弱軸の剛性をいかに補剛するかという現場判断が、構造エンジニアの腕の見せ所となります。