1981年10月に東宝系で封切られた映画『典子は、今』は、配給収入約16億円、観客動員数は数百万人に達し、文部省(現・文部科学省)特選をはじめ数々の栄誉に輝いた不朽の名作です。メガホンを取ったのは、映画『名もなく貧しく美しく』などで知られる社会派の名匠・松山善三監督でした。
母親が妊娠初期に服用した睡眠薬の影響による「サリドマイド胎芽症」のため、両腕を欠損して生を受けた辻典子さん。映画は本人が本人役を演じるという異例のドキュメンタリー劇映画の形態が採られました。当初、ご本人はプライベートや障がいが好奇の目にさらされることを恐れて出演を拒み続けましたが、「同じ苦しみを持つ人々に生きる勇気を与えたい」という母親・キミヨさんの願いと、「障がい者を可哀想な存在としてではなく、誇り高き一人の人間として描く」という松山監督の真摯な熱意に打たれ、出演を決断した経緯があります。
あらすじの核心は、足指を使った箸使い、裁縫、タイプライター、さらには車の運転や水泳に果敢に挑戦する日常のリアルな営みです。母親との愛憎入り混じる自立訓練を経て、やがて彼女は自力で社会へ羽ばたくため、難関の「熊本市公務員採用試験」に挑みます。ラストシーンで見せる合格通知を手にした満面の笑みと海辺を走る姿は、当時の日本中を熱狂的な感動で包み込みました。