「愛の讃歌」の原曲「Hymne à l'amour」が誕生したのは1949年のことです。作詞を手掛けたエディット・ピアフは、当時、最愛の恋人であったプロボクシング世界王者マルセル・セルダンに向けてこの詩を書き下ろしました。しかし、同年にセルダンは飛行機事故によって突如この世を去ります。翌1950年に正式発表されたピアフの歌唱には、愛する人を失った底知れぬ喪失感と、死をも超越した永遠の愛への狂気にも似た誓いが刻み込まれていました。
この哀切極まるシャンソンを、英語圏のポピュラーソングへと架橋したのが、作詞家ジェフリー・パーソンズです。「If You Love Me (Really Love Me)」と題された英語詞は、1954年にケイ・スターらが吹き込みヒットを記録しましたが、楽曲の真のポテンシャルを極限まで引き出したのが、1966年にアルバム『By Request』などでこの曲を録音したブレンダ・リーでした。
1944年12月11日、米ジョージア州アトランタに生まれたブレンダ・リーは、幼少期から天才的な歌唱力を発揮し、1950年代末からロカビリーやカントリー、ポップス界のトップに君臨しました。1960年代を通じてビルボードチャートに送り込んだ楽曲数は実に47曲に達し、同年代の女性アーティストとして全米ナンバーワンの実績を誇ります。そんな彼女が20代初頭の成熟期に吹き込んだ「愛の讃歌」は、フランスの情緒的な悲恋歌を、ダイナミックなソウルと情熱を宿した普遍的アンセムへと塗り替えた歴史的転換点となったのです。