ネット上のQ&Aサイトや一部の飼育マニュアルでは、「子犬の頃からちゃんとしつけ教室に通わせれば、どんな犬でも大人しく飼いやすくなる」といった記述が散見されます。しかし、臨床行動学を専門とする獣医師たちの見解は異なります。ジャックラッセルテリアが抱える問題の多くは、単なる「服従訓練不足」ではなく、「犬種特有の認知的要求(頭脳労働)と身体的欲求の欲求不満」から生じる自律神経の異常興奮だからです。
彼らは驚くほど頭の回転が速く、飼い主の感情や隙を一瞬で見抜きます。「おすわり」や「待て」といった型通りの指示を完璧にこなす一方で、散歩コースや日常の退屈に苛立つと、知恵を絞ってケージを脱走したり、飼い主がもっとも嫌がるポイントを狙って破壊行為を行ったりします。力で抑え込もうとする古典的な体罰トレーニングを行えば、持ち前の防衛本能が刺激され、即座に「本気噛み」へとエスカレートします。
彼らに必要なのは、単なる服従ではなく、フリスビーやアジリティ、ノーズワークといった「知性と体力を極限まで使う協調作業」です。これを日課として提供できない環境であれば、どんなに優秀な訓練士が一時的に預かり訓練を行っても、家庭に戻った途端に元の荒れた状態へと逆戻りしてしまいます。