ネット検索で頻繁に見受けられるのが、「視界に黒い影 ストレス 疲労」という組み合わせだ。デスクワークでの過労や極度の精神的ストレスを抱えている際、目の前に影が見えやすくなるため、「疲労を取り除けば自然に治る」と信じ込んでいるユーザーは驚くほど多い。だが、ここには重大な医学的誤解が存在する。
結論から言えば、ストレスや疲労そのものが硝子体の中に物理的な濁りを作り出すことはない。疲労や自律神経の乱れによって生じるのは、「瞳孔のピント調節機能の低下」や「脳の情報処理能力の過敏化」である。これにより、元から眼球内に存在していたわずかな生理的濁りを、普段以上に脳がクッキリと知覚してしまうというのが医学的な実態だ。
また、ネット上では「サプリメントや市販の目薬で動く影の治し方がある」といった科学的根拠のない情報が散見されるが、これも完全な誤りである。一度ゼリー状の硝子体の中に生じた物理的な混濁や剥離した繊維組織を、目薬や点眼薬、内服薬で溶かして消失させることは現代医療でも不可能だ。濁りを物理的に除去する手段は硝子体手術や低侵襲レーザー(飛蚊症レーザー治療=YAGレーザー)に限られるが、生理的飛蚊症に対して侵襲的な治療を行うことはリスクがメリットを上回るため、標準治療では推奨されない。民間療法に惑わされて眼科受診を先延ばしにすることこそが、最大の過ちである。