栄養価値が極めて高いにもかかわらず、なぜ人間は直感的に白い筋を忌避してしまうのか。その元凶となっているのが、噛み締めた際に舌先に広がる微かなエグみと苦みです。では、みかんの筋が苦い理由はどこにあるのでしょうか。
その苦みの主成分は、柑橘類特有のポリフェノール配糖体(ナリンギン等)と、「リモノイド(Limonoid)」と呼ばれるテルペノイド化合物(リモニンやノミリン)です。これらは決して果実の劣化や毒素ではなく、植物が過酷な自然界で生き残るために獲得した「化学的防御シールド」です。
植物にとっての果実とは、自らのDNAを宿した「種子」を安全に育て上げ、次代へと運搬させるための揺りかごに他なりません。未成熟な段階で草食動物や害虫、鳥類に果肉を食べ尽くされないよう、果皮や維管束の表面に苦みのバリアを張り巡らせることで外敵を遠ざけているのです。また、強い紫外線やカビ・細菌の感染から脆弱な内部を守るための抗酸化物質としても機能しています。
人間にとって「苦い・食感が硬い」と感じられる要因は、植物にとっては外圧を跳ね返すための強靭な細胞壁と抗菌化合物の痕跡そのもの。皮肉にも、病害虫を退けるその苦み成分(リモノイドやフラボノイド)こそが、人間の体内に入った際には抗炎症作用や発がん抑制効果を示す研究対象として脚光を浴びています。