19世紀後半、ヨーロッパを席巻したジャポニスムの波の中で、『蛸と海女』は西洋の芸術家たちに決定的な雷鳴のごとき衝撃を与えました。
フランスの小説家・美術評論家であるエドモン・ド・ゴンクールは、1896年に著した『北斎』の中で本作を熱烈に称賛。彫刻家のオーギュスト・ロダンや画家のパブロ・ピカソ、さらにはベルギーの象徴派画家フェリシアン・ロップスらも本作の複写や版画を個人的に所持し、自らの創作活動における強いインスピレーション源としたことが記録されています。
西洋のキリスト教的倫理観では「悪魔」や「罪悪」の象徴とされがちだった怪物的な生物が、東洋の島国では女性と悦楽を分かち合っている——この根底にあるアニミズム的な世界観と高い造形力は、近代西洋美術の固定観念を根底から揺さぶりました。
さらに現代においては、荒木経惟、村上隆、会田誠といった国際的トップアーティストたちが本作へのオマージュ作品を発表。海外のアニメや映画、サブカルチャーにおける「触手表現(Tentacle Art)」の元祖としても世界中で認知されており、その文化的影響力は今なお拡大を続けています。