どれほど茹で加減が完璧であっても、下処理と包丁仕事に狂いがあれば鱧料理は台無しになります。とりわけ重要なのが、皮の表面に存在するヌメリの完全除去です。
鱧の生臭さの主原因は皮目のヌメリに凝縮されています。調理前の臭み取りと下処理として、包丁の背やすき引きの手法を用い、皮の表面を頭から尾に向けてこそげるようにしてヌメリを徹底的に刮ぎ落とします。その後、粗塩を振って軽く揉み、流水で素早く洗い流してから水気を徹底的に拭き取ることが不可欠です。
そして鱧料理の真骨頂といえるのが骨切りのコツです。鱧には無数の硬く入り組んだ小骨が存在するため、皮一枚を残して身と骨を細かく刻む作業が欠かせません。
伝統的な京料理の技術基準では「1寸(約3.03cm)につき24回包丁を入れる」とされており、およそ1.2mm間隔でリズミカルに包丁を落としていきます。コツは、包丁の重みを利用して「シャリッ、シャリッ」と小骨が切れる手応えを感じつつ、まな板に刃が当たって皮を切断してしまわない絶妙な力加減を保つことです。骨切りが浅いと口の中に骨が刺さり、深すぎると茹でた際に身がバラバラに崩れてしまいます。