吉田恵里香脚本による『虎に翼』は、史実を極めて緻密に取材しながらも、エンターテインメントとしての劇的なアレンジが施されています。特に視聴者の関心を集めた「実話との違い」は以下の点に集約されます。
第1に、子供の性別と家族関係です。劇中の寅子は一人娘の「優未」を育て上げますが、史実の嘉子が最初の夫・和田芳夫との間にもうけたのは長男の芳盛(よしもり)でした。芳盛はのちに写真家・寄生虫研究者となる個性的な人物で、嘉子とは時に激しく衝突しながらも深い情愛で結ばれていました。
第2に、同級生・同僚キャラクターの構成です。女子部の同期である山田よね(土居志央梨)や崔香淑(ハ・ヨンス)、桜川涼子(桜井ユキ)らは、当時の女子部生たちや裁判官たちのエピソードを複合的に組み合わせて作られたオリジナルキャラクターです。ただし、女性弁護士の草分けとして共に合格した久米愛・中田正子の存在感は、登場人物たちの思想的バックボーンに色濃く反映されています。
第3に、「原爆裁判」判決への関与です。1963年の「原爆投下は国際法違反である」と明言した歴史的判決(下田事件)において、三淵嘉子は東京地裁の右陪席裁判官として合議体に加わっていました。劇中でも桂場等一郎(松山ケンイチ)や汐見圭(平埜生成)らと共に苦悩する姿が描かれましたが、判決文の実質的な起案に携わった史実はドラマ以上に司法史上の金字塔として評価されています。