成駒屋の歴史において、もっとも過酷な試練となったのが2013年秋の出来事でした。九代目中村福助が歌舞伎界最高峰の名跡である「七代目中村歌右衛門」を、長男の中村児太郎が「十代目中村福助」を同時に襲名することが華々しく発表された直後、福助が脳出血で倒れたのです。襲名披露興行は無期限延期となり、一門は深い暗雲に包まれました。
しかし、絶望の淵から立ち上がったのは当時まだ10代だった中村児太郎でした。大学に通いながら毎日のように病室へ通い、厳しいリハビリに付き添う傍ら、自身は女形としての修練を過酷なまでに積み上げました。舞台関係者の手記やインタビューでは、「父の舞台復帰を信じ、成駒屋の女形の灯を絶対に消さないという児太郎丈の執念は凄まじいものがあった」と当時の様子が克明に語られています。
約4年8カ月に及ぶ過酷なリハビリを経て、2018年9月に福助は見事に舞台復帰を果たしました。言葉や動きに制限が残る中でも、舞台に現れた瞬間に放たれる神々しいまでの存在感は、客席の涙を誘い続けています。父を支え抜いた児太郎もまた、今や大役の女形を堂々と勤め上げる若手屈指の女形へと大成しました。七代目歌右衛門の襲名が今後どのような形で実現するのか、劇界関係者のみならず多くのファンがその行方を温かく見守っています。