有権者の関心が高いトピックの一つが、給料や年収の違いです。世間では「総理大臣と自民党総裁を兼任しているのだから、給料も2つのポストから満額もらって倍増しているのではないか」という噂が囁かれることがあります。
給料の実態:兼任による「二重取り」は発生しない
内閣総理大臣の報酬は「特別職の職員の給与に関する法律」によって厳格に規定されています。首相の俸給月額は約201万円、これに地域手当や期末手当(ボーナス)が加算され、国会議員としての歳費や手当の調整を経た額面の年収は約4,000万円前後(景気動向に伴う自主返納措置により実受取額は変動)となります。
一方、自民党総裁としての手当は党の政治資金から支払われますが、首相在任中は「公職専念」の観点や世論の批判を避けるため、党からの報酬は受け取らないか、儀礼的な少額に留めるのが慣例です。したがって、兼任したからといって年収が6,000万〜8,000万円に跳ね上がるような事実はなく、公職者としての法規定に基づいた給与体系が適用されます。
永田町取材で見える「執務室の使い分け」と精神的プレッシャー
永田町を取材する政治部記者が目の当たりにするのは、ポストの違いによる移動と態勢の露骨な変化です。
首相として「首相官邸」にいる時間は、各省庁の事務次官からレクチャーを受け、危機管理センターからの緊急事態に備え、国家の安全保障に関わる判断を下します。この時の背後には警視庁警護課(SP)の厳戒態勢と秘書官チームが張り付きます。
一方、車でわずか数分の「自民党本部」に入ると、表情は「選挙の顔」「党内調整のボス」へと切り替わります。派閥解消後も残る各勢力からの要望処理、公認争いの仲裁、連立与党である公明党との政策協議など、党務特有の生々しい人間関係の調整が待ち受けています。
かつて歴代の首相経験者が回顧録や退任インタビューで「官邸の孤独よりも、党本部の幹事長室や長老への根回しの方が胃が痛む作業だった」と漏らしたように、国家の長としての責任と、組織の長としての調整力という相反する2つの重圧を同時に背負うことこそが兼任の本質です。