「穴が開いていない綺麗な粒を選んだのに、なぜ机の上を虫が這っているのか」――この疑問の背景には、どんぐりに産卵する甲虫類の特殊な生態があります。主にどんぐり内部から出現するのは、ハイイロチョッキリやクリシギゾウムシといったゾウムシ科の昆虫の幼虫です。
母虫はまだ実が青く柔らかい夏から初秋にかけて、長大な口吻(こうふん)を使ってどんぐりの殻に微細な穴を開け、内部深くに卵を1粒ずつ産み付けます。産卵後、母虫は殻の傷口を分泌物や木屑で完璧に塞いでしまうため、人間の肉眼で表面の産卵痕を見分けることはほぼ不可能です。さらにハイイロチョッキリは、産卵を終えるとどんぐりが付いた枝ごと切り落とす習性を持っています。つまり、「地面に落ちている青みのある綺麗な実」ほど、高確率で卵が入っているというパラドックスが存在するのです。
どんぐりの実の中で孵化した幼虫は、内部の栄養豊富なデンプン質を食べて成長し、約2〜3週間で殻を食い破って外に出て土に潜ろうとします。これが、部屋の中に幼虫が出現する決定的なメカニズムです。「穴が開いているどんぐり」はすでに幼虫が脱出した後の空き家ですが、「穴が開いていないピカピカのどんぐり」こそが、数日から数週間後に幼虫が這い出してくる時限爆弾となり得ます。