宿の廊下を歩くと、軋む床の音が心地よく耳に届く。昭和初期から明治にかけて建てられた本館や別館の意匠は、職人の精巧な技とこだわりが凝縮された工芸品そのものだ。格子戸越しに見える庭園の景色や、手吹きガラス特有の歪みが生み出す光の揺らめきは、現代のコンクリート建築では決して再現できない独創的な情緒を醸し出している。
こうした歴史的価値が高く評価され、文化庁より「登録有形文化財宿」として指定を受けた建造物の数々は、まさに生きた日本の建築史である。古き良き日本建築の美意識に浸りながら過ごす一夜は、日々のストレスを一瞬で吹き飛ばしてしまうほどの特別な深い癒やしを提供してくれる。