物語のふたつの軸、それは緑豊かな奥茨城の情景と、東京・赤坂にある洋食屋「すずふり亭」だ。
奥茨城のシーンで漂うのは、澄んだ空気と泥の匂い。家族を支えるために立ち上がる人々の愚直な生き様が、どこか懐かしくも切ない。一方で、すずふり亭の扉を開けると、そこにはハイカラな洋食の香りと洗練された都会の温もりが広がる。ハヤシライスの一皿、ポークソテーの焦げ目。料理ひとつひとつに注がれる職人たちのまなざしが、上京したばかりのヒロイン・みね子の孤独を包み込んでいく。
この二つの世界の対比が実に見事だった。地方の貧しさと都会の煌びやかさを安易な対立構造にせず、どちらにも真摯に生きる人間たちの営みを描き切った。だからこそ、観客は画面の向こう側の世界を「自分の知っている過去」のように愛おしく感じたのだ。