「自閉症の顔つきに特徴はあるのか?」という問いに対し、小児神経科医や臨床遺伝専門医が下す結論は極めて明確です。自閉症スペクトラム(ASD)そのものを理由とする特有の顔立ちや骨格は存在せず、外見から診断することは医学的に一切不可能です。
日本国内の小児医療機関や米国精神医学会の診断基準(DSM-5-TR)において、ASDの診断指標に「顔貌(顔の形)」は含まれていません。診断はあくまで、社会的コミュニケーションの持続的な障害と、限定された反復的な行動パターンの有無という「行動と認知の特性」を多角的に診査して下されます。
ではなぜ、自閉症の顔つきに医学的根拠があるかのような言説が後を絶たないのでしょうか。その背景には、過去に海外で発表された一部の3D顔面計測研究がネットメディアで針小棒大に切り取られ、歪められて拡散した経緯があります。2010年代初頭の学術論文では、ASD児の顔面において「目と目の間隔がわずかに広い」「上顔面がやや広い」といったミリ単位の統計的差異が報告された例はあるものの、研究者自身が「個人の診断マーカーとしては全く使えない」と明言しています。
また、ダウン症候群や脆弱X症候群のように、特定の染色体異常や遺伝子疾患に伴って特徴的な顔貌(異形徴候)が現れ、同時に自閉的症状を合併するケースがあります。ネット上の俗説は、こうした遺伝性症候群の知識と広汎性発達障害の概念をごちゃ混ぜにして混同した結果、発達障害の特有の顔つきの真相として誤った一般化を定着させてしまった側面が大きいといえます。