『方丈記』は、清少納言の『枕草子』、吉田兼好の『徒然草』と並び、日本三大随筆の一つに数えられます。それぞれの作品が成立した時代背景と文風を比較すると、『方丈記』の際立った個性が浮き彫りになります。
平安中期の宮廷サロン文化を背景に、「をかし(知的で明るい興趣)」の世界を研ぎ澄まされた感性で描いたのが『枕草子』です。一方、鎌倉末期から南北朝の動乱期を生きた吉田兼好の『徒然草』は、人生訓や人間観察、美意識を多角的に綴る柔軟な思索が特徴です。
これらに対し、『方丈記』は極めて簡潔でリズミカルな和漢混淆文(漢文訓読体と和文の長所を融合させた文体)を用い、劇的な社会崩壊と個人の生き方を切実に問いかけました。美辞麗句を削ぎ落とした硬質な文体だからこそ、冒頭の「ゆく河の流れ」のインパクトが際立っています。