赤地に白抜きの暖簾、油で磨かれたようなカウンター席、壁に貼られた手書きの短冊メニュー。どこにでもありそうで、どこにもない。それがこの店の空気感だ。かつて日本の高度経済成長期を支えた大衆中華料理の文化は、時代の移り変わりとともに店舗数を減らしてきた。しかし、ここには衰退の気配など微塵もない。
訪れる客の顔ぶれは実に多彩だ。作業着姿の常連客から、噂を聞きつけて遠方から訪れた若いカップル、さらにはスマートフォンの地図を片手にやってくる外国人観光客までが、肩を並べて同じ皿を待っている。メディアやSNSでどれほど情報が溢れようと、舌の肥えた人々を納得させるのは結局のところ、鍋肌から立ち上る本物の旨味だけなのだ。