救急外来や整形外科の現場において、医師が最も頻繁に耳にする誤解が「歩けたので折れているとは思わなかった」という言葉です。しかし、足の小指骨折でも歩ける理由は、人体の解剖学的構造と生体力学(バイオメカニクス)を紐解けば極めて明快に説明できます。
人間が二足歩行を行う際、体重を支える荷重軸は「踵骨(かかと)→ 足の外側縁 → 母指球(親指の付け根)→ 親指の先」へと流れていきます。地面を力強く蹴り出す推進力の主軸を担うのは第1趾(親指)と第2趾(人差し指)であり、小指(第5趾)にかかる直接的な垂直荷重は全体のわずか数パーセントに過ぎません。
そのため、小指の末節骨や中節骨、基節骨が骨折していても、無意識のうちにかかと立ちになったり、足の内側に重心を偏らせて歩く「代償歩行」をとることで、激痛に耐えながら歩行を継続できてしまいます。「歩行可能=骨に異常なし」という等式は完全に破綻していると認識しなければなりません。
代償歩行を続けると、骨折部にせん断応力(骨片同士を擦り合わせる力)が加わり続け、本来ならば安定してくっつくはずの骨がズレていきます。これが、足の小指をぶつけて痛みが引かない原因として臨床現場で極めて多く見られるパターンのひとつです。