東京屈指の激戦区にあって、両国の蕎麦名店として確固たる地位を築いている江戸蕎麦ほそ川。その人気の根源にあるのは、単なるブランド力ではなく、店主・細川貴志氏の徹底的な蕎麦への探求心と妥協なき職人精神です。埼玉・吉川での創業期から数々の蕎麦愛好家を唸らせ、2003年に現在の両国へ移転して以降も、江戸蕎麦ほそ川のミシュラン掲載実績は揺るぎない評価として国内外に知れ渡っています。
細川氏が提供するのは、つなぎを一切使わない「生粉打ち(十割蕎麦)」です。一般的な十割蕎麦に見られるぼそぼそとした食感や切れやすさは皆無で、驚くほどしなやかで喉越しの良い細打ちに仕立てられています。玄蕎麦は茨城県境町、北海道、四国など、その時期に最も状態の良い産地から丸抜き(殻を剥いた状態)で直接仕入れ、店舗併設の低温倉庫で徹底した湿度・温度管理を実施。毎朝その日の気温や湿度に合わせて石臼の回転数を微調整しながら自家製粉する工程は、もはや精密機械のオペレーションに近い緻密さです。
取材関係者や食通の間でも「ほそ川の蕎麦は香りの立ち方が別格」と称されます。挽きたて、打ちたて、茹でたてという「三たて」の原則を極限まで研ぎ澄まし、茹で時間はわずか数十秒。冷水で一気に締められた蕎麦が運ばれてきた瞬間、立ち上る清々しい穀物の甘やかなアロマに誰もが息を呑みます。奇をてらわない古典的な江戸前蕎麦の枠組みを守りつつ、素材のポテンシャルを極限まで引き出す手腕こそが、何年経っても客足が途絶えない最大の秘密です。