今や讃岐うどんに並ぶ香川のご当地グルメとして確固たる地位を築いた骨付鳥。その歴史の原点は、1952年(昭和27年)の香川県丸亀市にあります。カウンターわずか6席のお好み焼き・おでん店として創業した「一鶴(いっかく)」の創業者・近藤銀之助氏と房子氏夫妻が、ハリウッド映画の中で大判の骨付きチキンにかぶりつく外国人女優の豪快な姿に衝撃を受け、「あんな贅沢で力強い料理を日本でも腹いっぱい食べさせたい」と試行錯誤を重ねたことが始まりでした。
当時、鶏肉といえば切り身やすき焼き、水炊きで食すのが一般的だった時代に、骨付きのもも肉を丸ごと1本焼き上げるスタイルは極めて前衛的でした。現在の一鶴公式アーカイヴや当時の手記によると、夫妻は特注の専用釜を開発し、300度を超える超高温のオーブンで蒸し焼きにしながら一気に皮を焼き切る独自の調理法を確立。下味には大量の粗挽き塩コショウと生ニンニクを擦り込み、焼き上がりの底に溜まる芳醇な鶏油(チーユ)ごと熱々の銀皿に盛り付けるという、現在に続く「骨付鳥の黄金律」を創り出しました。
この料理が単なるフライドチキンやローストチキンと一線を画す最大の理由は、「強烈なスパイシー感」「蒸し焼きによる肉汁の封じ込め」「純度100%の鶏油の活用」という3つの要素が三位一体となっている点にあります。喉を刺激するほどのカイエンペッパーと黒胡椒のキレ、鼻腔を抜けるニンニクの芳香、そして動物性の油が舌に絡みつく構造は、味覚生理学的にも強烈な報酬系を刺激し、一度食べたら忘れられない中毒性を生み出しています。