日栄軒の代名詞といえば、誰もが口を揃えて挙げるのが「穴子天そば」の圧倒的なビジュアルと完成度です。注文からわずか数十秒、カウンター越しに差し出される丼を見た初見の客は、ほぼ例外なくその長大さに目を奪われます。一般的な立ち食いそばの器の直径を優に超え、両端が宙に浮くほどのサイズを誇る一本揚げの穴子天は、まさに職人技の結晶です。
この穴子天が単なる「デカ盛り」企画にとどまらず、長年にわたり熱烈な支持を集めている理由は、計算し尽くされた味のバランスにあります。衣は厚すぎず薄すぎず、熱いつゆに浸ってもすぐにドロドロに崩れない絶妙な揚げ上がりを保っています。身はふっくらとしており、川魚特有の泥臭さは一切感じられません。仕込み段階での丁寧な下処理が施されている証拠です。
そして、この豪快な天ぷらを受け止めるのが、創業以来受け継がれてきた漆黒の関東風つゆです。鰹節の力強い風味と濃口醤油のキレ、そしてみりんのまろやかな甘みが一体となった伝統の出汁は、穴子の油分が溶け出すことで時間とともにコクと深みを増していきます。「最初はサクサクの端っこをかじり、中盤はつゆを吸ったジューシーな衣を麺とともに啜る」という食べ進め方こそ、常連たちが愛してやまない至福のルーティンです。