結論から申し上げますと、現代の獣医学およびアレルギー免疫学において「100%アレルギーを引き起こさない犬種」は地球上に存在しません。海外のブリーダーやメディアで用いられる「ハイポアレルジェニックドッグ(Hypoallergenic Dog)」という呼語も、正しくは「アレルギーを引き起こす可能性が“通常より低い”犬」を意味しており、アレルゲンがゼロであることを保証するものではないのです。
この誤解を解くためには、まずアレルギーを引き起こす原因物質の正体を正しく知る必要があります。
犬アレルギーの主原因は、犬の被毛そのものではありません。主たる元凶は、犬の唾液、皮脂腺、涙、尿などに含まれる微小なタンパク質(アレルゲン)です。世界アレルギー機構(WAO)をはじめとする研究機関により、現在までに「Can f 1」から「Can f 8」までの主要アレルゲンが特定されています。
特に患者の50〜70%以上が反応を示す代表的アレルゲン「Can f 1」は、舌や唾液腺、皮膚のフケ(角質)に多く存在します。犬が自分の体を舐めて毛づくろいをすると、唾液中のCan f 1が被毛に付着します。それが乾燥して剥がれ落ちたフケや抜け毛とともに空気中に浮遊し、人間の呼吸器や結膜、皮膚に触れることでアレルギー反応が引き起こされるという構造です。
つまり、「抜け毛が極めて少ない」「フケが毛皮の奥に閉じ込められやすい巻き毛である」「アンダーコート(下毛)を持たないシングルコートである」という特徴を持つ犬種は、アレルゲンを室内に撒き散らすリスクが物理的に極めて低いため、「アレルギーでも飼いやすい犬」として分類されているのです。