来館者のレビューで時折見受けられる「思ったより展示数が少ない」「本物の肉筆画や初摺浮世絵があまり並んでいなかった」という不満の声。ここには、紙媒体の文化財保存に関する専門的な保存管理基準とのギャップが存在します。
江戸時代に和紙と植物・鉱物由来の顔料で刷られた浮世絵版画は、極めて光や湿度に弱いデリケートな美術品です。文化庁の公開基準でも、原画の年間展示日数は制限されており、常設展示室では高精細なファクシミリ(複製)やデジタルアーカイブを主軸に据えることが国際的な文化財保護のスタンダードとなっています。
「すべてが本物の原画で埋め尽くされている」と誤解して訪れると肩透かしを食う可能性がありますが、そのぶん企画展では期間ごとにテーマを変えた貴重な肉筆画や摺りたての状態を再現した特別出品がローテーションで公開されています。高精細モニターでの超拡大鑑賞や、北斎が指南書『北斎漫画』で説いた描画ロジックの解剖など、知的好奇心を刺激するエデュケーション展示こそが同館の真価です。