この美酒の出自を語る上で欠かせないのが、九州各地の蔵を支えてきた職人集団「黒瀬杜氏」の存在だ。卓越した技術で日本の酒造りを牽引してきた彼らの歴史と技を今に伝える拠点が、南さつま市の海岸線に佇む「杜氏の里笠沙」である。観光施設としての顔を持ちながら、その実態は妥協なきクラフトマンシップが息づく生きた醸造所だ。
仕込みに使用されるのは、厳選された地元産の黄金千貫と地下から湧き出る清らかな仕込み水。それらを、地中に深く埋め込まれた歴史ある大壺でゆっくりと発酵させる。いわゆる「かめ壺仕込み」だ。外気温の変化を遮断し、壺の内壁に棲みつく有益な微生物とともに時間をかけて育まれる醪(もろみ)は、ステンレス製の大規模タンクでは決して再現できない複雑な風味を生み出す。杜氏が五感を研ぎ澄まし、櫂棒(かいぼう)一本で対話しながら仕上げる酒質は、工業製品の対極にある工芸品そのものだ。