映画『室井慎次』の2部作が大きな話題を呼んでから月日が流れたが、あの作品が突きつけたメッセージは今なお観客の胸に深く刻まれている。「眉間にシワを寄せた孤高の官僚」というキャラクターは、長年にわたり彼の代名詞であり、同時に逃れられない壁でもあった。その役に決着をつけ、自らの肉体を通して表現しきった経験が、彼をまた一つ上のステージへと押し上げた。
役に命を吹き込むということは、己の人生そのものを削り出す作業に他ならない。若い頃のような力任せの演技ではなく、立ち姿一つ、沈黙の間一つで雄弁に語る境地。それが現在の彼が見せる圧倒的な演技の質感だ。