両国国技館の中央に鎮座する土俵には、外観からは伺い知れない神聖な儀式が組み込まれている。本場所が始まる直前、土俵の中央には深さ約15センチの穴が掘られ、「鎮め物(しずめもの)」と呼ばれる神聖な供え物が納められる。洗米、塩、スルメ、昆布、榧(かや)の実、勝栗の6種類だ。これらを奉納し、清めの酒を注ぐことで、土俵は単なる格闘技のリングから神が宿る「聖域」へと変貌を遂げる。
土の素材にも一切の妥協はない。使用されるのは埼玉県川越近郊で採取される荒木田土(あらきだつち)。粘土質が高く、適度な湿気を保つことで力士の激しい踏み込みに耐えうる強度を生み出す。公益財団法人日本相撲協会が脈々と守り続けるこの伝統は、数百年以上形を変えずに受け継がれてきた。土俵の高さ60センチ、一辺6.7メートルの正方形の基壇に刻まれた無数の勝負の痕跡は、まさに神事とスポーツが融合した独自の文化遺産そのものだ。