在北京の外交筋や中国政府高官の間で、垂氏はいつしか『アポイントの取れない大使』と噂されるようになった。中国側からの不当な要求や圧力に対しては毅然とした拒絶姿勢を突きつけ、安易な歩み寄りを固く拒んだからだ。だが、それは無謀な突っ張りを意味していたわけではない。
徹底した情報収集と冷徹な状況把握。相手が最も嫌がるカードを静かに揃え、ここぞという局面で突きつける。駐中国日本国大使館の指揮官として見せたその姿勢は、対話と威嚇を巧妙に使い分ける中国外交の真髄を熟知していたからこそ可能だった外交戦術だ。妥協を許さないタフなネゴシエーターとしての異名は、中国側に深い警戒感と同時に確かな敬意を植え付けた。