「嫌な事件だったね 元ネタ」を検索する読者の中で、長年議論の的となっているのが「このセリフを言ったのは富竹ジロウなのか、それとも大石蔵人(おおいしくらうど)刑事なのか」という発言者の記憶違いです。
ネット掲示板やSNSでは、白髪交じりの恰幅の良い体躯で執拗に事件を捜査するベテラン刑事・大石の画像とともにこのフレーズが貼られるケースが後を絶ちません。なぜこのような混同が起きるのでしょうか。当時のシナリオ展開と演出を振り返ると、記憶のすり替えが起きる明確な心理的構造が存在します。
富竹が圭一に「嫌な事件だったね」と言い残した後、圭一は仲間である竜宮レナや園崎魅音にその内容を尋ねますが、彼女たちは一変して冷淡な態度を取り、「そんな事件は知らない」と頑なに口を閉ざします。親友たちへの不信感が芽生え孤立していく圭一に接触し、車内へ招き入れて村の暗部である「ダム計画反対闘争」や「バラバラ殺人事件」の詳細を生々しく吹き込むのが、まさに大石刑事の役割でした。
大石の醸し出す粘着質でどこか怪しげな演技(アニメ版の茶風林氏の名演)の印象が強烈すぎるあまり、後追いのファンやネットミームから作品を知ったライト層の間で、「事件の情報を耳打ちしてきたのは大石だった」という記憶の合成が生じてしまったのです。事実関係を整理すれば、最初に口火を切ったのは間違いなく富竹ジロウであり、大石はその後に事件の全貌を圭一に明かして疑惑を深めさせた追撃者という構図になります。