この歌の鑑賞において見逃せないのが、中世文学における位置づけの変遷です。西行の私家集である『山家集』では、旅路での孤独や自然との対話といった私的な祈りの歌として響きます。一方、死後に編纂された『新古今和歌集』においては、幽玄で研ぎ澄まされた中世美学の象徴として選評されました。
西行の「風狂の生き様」と「美に殉じる死生観」は、のちの時代にも受け継がれました。江戸時代の俳聖・松尾芭蕉は西行を終生の師と仰ぎ、『奥の細道』の旅へ出奔する原動力としました。自然と一体になり、旅の中で命を使い切るという日本文化特有の生き方の原型は、まさに西行がこの一首とともに切り拓いた道でした。