ロバの身体的特徴として、愛好家の間で有名なのが背中の十字模様(Dorsal stripe & Shoulder stripe)です。多くのロバの背骨に沿って一本の濃い黒毛の線が走り、肩口の部分で左右に垂直に交差する十字架のような模様が現れます。
キリスト教の宗教画や伝説では、「エルサレム入城の際にイエス・キリストを背中に乗せて運んだ功績を讃え、神から十字架の印を授けられた」という逸話が語り継がれています。しかし、生物学的な真実は異なります。
ロバの背中の十字模様の理由は、野生祖先であるヌビアノロバやソマリノロバが持っていた「野生型(原始型)の保護色毛」の名残です。岩肌や砂漠の陰影が複雑に交差する環境において、肉食獣の目から体の立体感を消し去る「分断色(Disruptive coloration)」の役割を果たしていました。シマウマの縞模様と同系統の進化適応であり、家畜化された現在も遺伝的に色濃く残っている個体が多いのです。
もうひとつの盲点が「蹄(ひづめ)の性質」です。乾燥地帯育ちのロバの蹄は、岩場を踏破するために非常に硬く直立した形状をしています。一方で水分を吸収しやすい多孔質の構造を持っているため、日本の梅雨やぬかるんだ土壌環境では蹄がふやけて細菌感染(蹄油病や白帯病)を起こしやすいという弱点があります。雨の多い気候では、馬以上に蹄の乾燥管理と衛生維持が求められます。