座長・都若丸が舞台に姿を現した瞬間、劇場の空間密度が跳ね上がる。彼が紡ぎ出す時代劇は、単なる懐古趣味の産物ではない。封建的な義理人情の物語であっても、彼の手にかかると現代を生きる我々の痛点に容赦なく突き刺さる生々しい人間ドラマへと昇華されるのだ。古典の骨格を寸分狂わず守りながら、台詞の間や抑揚にはどこか現代的な疾走感が宿る。
とりわけ長谷川伸の名作『瞼の母』で見せる番場の忠太郎は圧巻だ。生き別れた母を求めて彷徨う無宿者の孤独と渇望。母と対峙した瞬間の硬直、そして絶望を飲み込んで旅立つ後ろ姿。若丸の頬を伝う汗と涙が照明を浴びて光るとき、客席のそこかしこからすすり泣きが漏れる。古典を骨の髄まで理解しているからこそできる、大胆かつ繊細な感情の爆発がそこにある。