ピエール瀧という役者の真価は、清廉潔白さとは対極にある「人間の底知れぬ悪意や哀愁」を体現できる点にある。映画『凶悪』で見せた冷酷非道な死刑囚の演技は、観客の心胆を寒からしめ、映画賞を総なめにした。あの狂気と愛嬌が紙一重で同居する佇まいは、型通りの演技指導では決して生み出せない天賦のものだ。
監督の白石和彌をはじめとする気鋭のクリエイターたちが彼を簡単に見捨てなかった理由はそこにある。道徳的な正しさだけでは成立しない映画の世界において、彼が放つ圧倒的なリアリティと不穏な影は、どうしても替えがきかない劇薬だったのだ。